日本特 – SAKE

Sake

KYOTO, Japan, they produce (brew) the best Sake in the world

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  1. Yuki-san on November 24, 2013 at 4:22 am

    日本特有の製法で造られる酒には、清酒のほかにも、焼酎(麦焼酎、芋焼酎、沖縄の泡盛など)、みりん、鈴木梅太郎らが発明した合成清酒などがある。しかし、単に「日本酒」という場合には、清酒を指す。日本酒は、一般には単に酒(さけ)、お酒(おさけ)と呼ばれる。また、日本古語では酒々(ささ)、僧侶の隠語で般若湯(はんにゃとう)、江戸時代にはきちがい水という別称もあった。現代では、若者にポン酒(ぽんしゅ[注釈 1])と呼ばれることもある。

    日本では酒類[1]に酒税を課すため、酒税法が酒類に関する包括的な法律となっている。同法において「清酒」とは、次の要件を満たした酒類で、アルコール分が22度未満のものをいう(酒税法3条7号)[2]。

    米、米こうじ及び水を原料として発酵させて、こしたもの
    米、米こうじ、水及び清酒かすその他政令で定める物品[3][4]を原料として発酵させて、こしたもの
    清酒に清酒かすを加えて、こしたもの
    なお、同法の「清酒」(酒税法3条7号)のほか、清酒の風味を持つ酒である「合成清酒」(同条8号)や、どぶろく[5]など一部の「その他の醸造酒」(同条19号)も日本酒に含まれる。

    日本酒は、元々、常温で飲用するアルコール飲料である。しかし、金銭的に恵まれた者らの始めた趣向から、徳利を湯煎で温めて飲用する「熱燗」が広 まった。また、20世紀後半以降には冷蔵技術が進んだため、冷やしたり氷を浮かべて供することも広まった。そのため、日本酒は、約5℃から約60℃まで、幅広い飲用温度帯を有するようになった(参照:#温度の表現(飲用温度))。このように、同種のアルコール飲料を同じ地域で異なった温度により味わうのを常としている例は、他に紹興酒などがある程度で、比較的珍しい(詳しくは燗酒を参照)。

    日本酒は、魚介類の臭み消しや香り付けなどの調味料として、調理に使用される。日本酒の製造過程で生じる酒粕(さけかす)も、砂糖や塩を加えた白湯に溶かして飲用するほか、粕漬けや粕汁など料理に用いられる。

    2010年度(平成22年度)における清酒の製成数量は42万5,199キロリットル、販売(消費)数量は55万8,443キロリットルである[6]。2009年度(平成21年度)の清酒の製造業者数は1,585業者で、そのうち中小企業が99.6%を占めている[7]。日本酒の製成数量は、名産地・灘があり大手酒造メーカーの集中する兵庫県(約30%)、同じく伏見のある京都府(約20%)と、近畿地方が多い。これに、米の生産量が多い新潟県(約7%)、大消費地に近い埼玉県(約4%)、愛知県(約4%)と続く[7]。成人一人当たりの日本酒販売(消費)数量は、新潟県が最も多く、東北地方の各県がこれに続く[6]。

    日本酒としてのアルコール度数以外の要件を満たしつつも、より高いアルコール度数の日本酒を製造することも技術的には可能で、『越後さむらい』(玉川酒造)のように、清酒の製法で製造されながらアルコール度数が46度に達する酒も存在する(酒税法上は3条21号のリキュール扱い)。

    海外での人気[編集]

    近年、発祥国の日本での消費は減退傾向にある。日本酒に限らず、ビール、ウイスキーも含め、日本では近年、全般的にアルコール飲料の消費量が減少している[8]。

    一方、アメリカ合衆国・フランスの市場では日本酒、とくに吟醸酒の消費が拡大し、イギリスでも2007年から国際ワインコンテストに日本酒部門が設置された。海外では日本酒のことを、日本語の「酒」にちなんで「sake(サケ、英語読みではサキィ)」と呼ぶ場合が多い。(参照:「日本酒の歴史」- 昭和時代以降)

    韓国でも数年前から日本酒がブームとなっている。しかし関税が高く現地では高級酒扱いである。韓国語では“正宗”と呼ばれていた(桜正宗に因むらしい)が最近では「サケ」が定着してきている[9]。

    歴史[編集]

    詳細は「日本酒の歴史」を参照

    原料[編集]

    日本酒の主な原料は、米と水と麹(米麹)であるが、それ以外にも酵母、乳酸菌など多くのものに支えられて日本酒が醸造されるので、広義にはそれらすべてを「日本酒の原料」と呼ぶこともある。専門的には、香味の調整に使われる「醸造アルコール」「酸味料」「調味料」「アミノ酸」「糖類」などは副原料と呼んで区別する。

    米[編集]

    用途によって、麹米(こうじまい)用と掛け米(かけまい)用の2種類がある。

    麹米には通常酒米(酒造好適米)が使われる。掛け米には、全部または一部に一般米(うるち米)が使われるが、特定名称酒の場合、酒米のみが使われることが多い。普通酒は麹米、掛け米ともにすべて一般米で造られるのがほとんどである。

    しかし、一般米からも高い評価を得る酒が造られており、高級酒となるとかつて山田錦一辺倒の傾向すらあった原料米の選び方や使い方も、近年は新種の開発などにより変化が著しい。

    「酒米」も参照

    水[編集]

    水は日本酒の80%を占める成分で、品質を左右する大きな要因となる。水源はほとんどが伏流水や地下水な どの井戸水である。条件が良い所では、これらを水源とする水道水が使われることもあるが、醸造所によって専用の水源を確保することが多い。都市部の醸造所 などでは、水質の悪化のために遠隔地から水を輸送したり、良質な水源を求めて移転することもある。酒造りに使われる水は酒造用水と呼ばれ、仕込み水として、また瓶、バケツの洗浄用水として利用される。

    蔵元の一部は、仕込み水を商品として販売している。

    硬度[編集]

    水の硬度は、酒の味に影響する要素の一つである。日本の日常生活では、硬度の測定にアメリカ硬度を用いている。醸造業界ではアメリカ硬度も使用されるが、長らくドイツ硬度が用いられている[10]。 造られる酒の味は、おおざっぱに言えば、軟水で造れば醗酵の緩い、いわゆるソフトな酒、硬水で造れば醗酵の進んだハードな酒になる。理由は、醸造過程で硬水を使用すると、ミネラルにより酵母の働きが活発になり、アルコール発酵すなわち糖の分解が速く進み、逆に軟水を使用するとミネラルが少ないため酵母の働きが低調になり発酵がなかなか進まないからである。

    江戸時代以来、灘では宮水と呼ばれる硬水が使用されていたが、1897年(明治30年)には広島県の三浦仙三郎により軟水醸造法が開発された。戦後に様々な日本酒ブームが起こったが、近年に購入される酒の日本酒度はやや上昇している[11]。

    水質[編集]

    水は、酒の原材料の中で唯一、表示義務の対象とされていない。したがって、原料水が、井戸水であるか水道水であるかを明らかにする必要はない。ただ し、酒造用水に課せられている水質基準は、水道水などと比べるとはるかに厳格である。酒蔵は、使用する水を事前にそれぞれの都道府県の醸造試験所、食品試験所、酒造指導機関などに送って監査を受けなくてはならない。

    監査は以下のような項目で行われる。

    臭気

    色度
    濁度
    pH
    塩素イオン
    カルシウム
    総硬度
    マグネシウム
    トリクロロエチレン
    全燐
    亜硝酸性窒素および硝酸性窒素 – 不検出でなければならない。
    過マンガン酸カリウム消費量
    一般細菌数 – 不検出でなければならない。
    大腸菌群 – 不検出でなければならない。
    水銀
    鉄 – 許容範囲は 0.02mg/L 以下(水道水では 0.3mg/L 以下)。
    マンガン – 許容範囲は 0.02mg/L 以下(水道水では 0.3mg/L 以下)。

    日本の水は各地によって小差はあるもののほとんどが中硬水であり、香味を損ねる鉄分やマンガンの含有量が少ないので、醸造に適しているといえる。たとえば、太平洋戦争前に満州へ渡り、在留日本人のために当地で日本酒を造ろうとした醸造業者たちが利用できる水を見つけるのに苦労したという話が多く聞かれる。

    なお、発酵、および麹菌や酵母菌の繁殖を促進するのに有効なだけの微量のカリウム・マグネシウム・燐酸については、成分調整として添加することができる。

    水の用途[編集]

    酒造りに用いられる酒造用水は、以下のように分類される。

    醸造用水 – 醸造作業の最中に酒の中に成分として取りこまれる水。
    洗米浸漬用水 – 米を洗い、浸しておく水。仕込みの前に米の中に吸収される水でもある。
    仕込み用水 – 醸造時に主原料として加える水。酒が「液体」として商品になるゆえんともいえる。
    雑用用水 – 洗浄やボイラーに用いられる水。これにも、水質の項で述べられているような厳しい基準を通過した酒造用水が用いられる。
    瓶詰用水
    洗瓶用水 – 瓶を洗う水である。
    加水調整用水 – アルコール度数を調整するために加える水。醸造後に酒にとりこまれる。
    雑用用水 – タンクやバケツの清掃に用いる水。これにも、水質の項で述べられているような厳しい基準を通過した酒造用水が用いられる。
    杜氏や蔵人の日常生活(食事や洗面など)には、一般人のそれと同じく水道水が用いられる。なお、興味深いことに、蔵人たちが入る風呂には酒造用水を用いる酒蔵が多い。すでにその段階から「仕込み」が始まっているとの酒蔵の考えによるものであり、縁起かつぎとして行っている。

    麹(正字は「麴」)[編集]

    日本酒に用いる麹は、蒸した米に麹菌というコウジカビの胞子を振りかけて育てたものであり、米麹(こめこうじ)ともいう。これが米のデンプンをブドウ糖に変える、すなわち糖化の働きをする。

    穀物である米は、主成分が多糖類であるデンプンであり、そのままでは酵母がエネルギー源として利用できないので、麹の働きによって分子量の小さな糖へと分解せねばならない。言い換えれば、酵母がデンプンから直接アルコール発酵を行うことはできないので、アルコールが生成されるには酵母が発酵を始められるように、いわば下ごしらえとしてデンプンが糖化されなければならない。その役割を担うのが、日本酒の場合は米麹である。米麹は、コウジカビが生成するデンプンの分解酵素であるα-アミラーゼやグルコアミラーゼを含み、これらの働きによって糖化が行われる。米麹は、ほかにタンパク質の分解酵素も含んでおり、分解によって生じたアミノ酸やペプチドは、酵母の生育や完成した酒の風味に影響する(参照:#麹造り)。

    洋酒では、ワインに代表されるように、原料であるブドウ果汁の中にすでにブドウ糖が含まれているので、わざわざこうした糖化の工程が要らず、そのため単発酵文化圏となった。東洋においては、日本酒だけでなく、他の酒類や味噌、味醂、醤油など多くの食品に麹が使われ、それが食文化的に複発酵文化圏、カビ文化圏などとも呼ばれる所以ともなっている。これは東南アジア – 東アジアの中高温湿潤地帯という気候上の特性から可能であった醸造法であり、微生物としての「カビ」の効果を利用したものである。

    東洋で使われる麹菌には数々の種類があり、焼酎には白麹・黒麹(黒麹菌)・黄麹、泡盛には黒麹、紹興酒には赤麹が用いられるのが通常だが、日本酒の場合は味噌、味醂、醤油と同じく黄麹(きこうじ)(黄麹菌、黄色麹菌)が用いられる。ただし、「黄色」と言われるわりには、実際の色は緑や黄緑に近い。

    また形状から分類すると、日本で用いられる麹は肉眼で見る限り米粒そのままの形をしているため、散麹(ばらこうじ)と呼ばれる。それに対して、中国など他の東洋諸国で用いられる麹は、餅麹(もちこうじ)と呼ばれ、原料となる米・麦など穀物の粉に水を加えて練り固めたものに、自然界に存在するクモノスカビ・ケカビの胞子が付着・繁殖してできるものである。

    酵母[編集]

    主原料ではないが、日本酒造りの大きな要素であるため、ここに記す。詳細は清酒酵母を参照。

    酵母とは、生物学的には真菌類に属する単細胞生物である。酒造りにおいては、通常は出芽酵母を指す。これも何十万を超える種類が自然界に広く存在しており、それぞれ異なった資質を持っている。この酵母の多様性が酒の味や香りや質を決定付ける重要な鍵となる。また多種多様な酵母の中で日本酒の醸造に用いられる酵母を清酒酵母といい、種は80%以上がSaccharomyces cerevisiae(出芽酵母)である。

    近代以前は、麹と水を合わせる過程において空気中に自然に存在する酵母を取り込んだり、酒蔵に棲みついた「家つき酵母」もしくは「蔵つき酵母」に頼っていた。その時々の運任せで、科学的再現性に欠けており、醸造される酒は品質が安定しなかった。

    明治時代になると微生物学の導入によって有用な菌株の分離と養育が行われ、それが配布されることによって品質の安定と向上が図られた。1911年(明治44年)第1回全国新酒鑑評会が開かれると、日本醸造協会が全国レベルで有用な酵母を収集するようになり、鑑評会で1位となるなどして客観的に優秀と評価された酵母を採取し、純粋培養して頒布した。こうして頒布された酵母には、日本醸造協会に因んで「協会n号」(nには番号が入る)という名が付けられた。このような酵母を協会系酵母、または協会酵母という。アルコール発酵時に二酸化炭素の泡を出す泡あり酵母と、出さない泡なし酵母に大別される。

    もともとの日本酒は、米の持つ地味な香りだけで、いわゆるワインのようなフルーティーな香りは無い。香りを持つようになった吟醸酒を誕生させるのに大きな役割を果たしたのは、協会系酵母の中の協会7号と協会9号であった。

    1980年代に吟醸酒が消費者層に広く受け入れられると、協会系酵母の他にも、少酸性酵母、高エステル生成酵母、リンゴ酸高生産性多酸酵母といった高い香りを出す酵母が多数作られ、今も大メーカーやバイオ研究所、大学などでさまざまな酵母が作られている。1990年代以降は、それぞれ開発地の地名を冠する静岡酵母、山形酵母、秋田酵母、福島酵母なども高く評価されるようになり、最近では、アルプス酵母に代表されるカプロン酸エチル高生産性酵母や、東京農業大学がなでしこ、ベコニア、ツルバラの花から分離した花酵母などが、強い吟醸香を引き出すのに注目を集めている。

    一方、日本酒における吟醸香が強すぎれば酒の味を損なうともされ、すべての酒において香りを強くすることを第一とはされない。

    乳酸菌[編集]

    自然の乳酸菌を用いる場合もあるが、多くの酒では添加する。酵母と同じように、日本醸造協会の「醸造用乳酸」もある。乳酸菌によって生産される乳酸は、他の雑菌が繁殖しないようにするために、とくに仕込みの初期に重要である。また、乳酸を始めとする酸が、酒に“腰”を与える。もし酸が全くなければ、酒はただ甘いだけのアルコール液になってしまう事から、酒造りにおいて酸を出すことも重視される。

    その他[編集]

    正式には副原料に区分されるもの。

    〈ラベルに表示される項目〉

    醸造アルコール – すっきりした味わいにするため、あるいは香りを残すためにもろみに加えられる。
    加えられたものはアル添酒と呼ばれる。

    糖類 – 酒に甘味を付け加える。また、糖化液として加えられ、それを発酵させる場合もある。
    アミノ酸 – 酒に旨みを付け加える。
    調味料 – 酒に旨みを付け加える。
    酸味料 – 酒に酸味を付け加える。
    <ラベルに表示されない項目>

    酵素剤 – 麹菌が造る「酵素」を補うためなどに「酵素剤」を使用することがある。原料重量の 1,000分の1 以下の場合、原料として扱われない。
    活性炭 – 酒の雑味を取る。使いすぎると酒自体の味が薄くなる。
    清澄剤
    ろ過助剤
    日本酒の製法[編集]

    日本酒はビールやワインとおなじく醸造酒に分類され、原料を発酵させてアルコールを得る。しかし、日本酒やビールはワインと違い、原料に糖分を含まないため、糖化という過程が必要である。ビールの場合は、完全に麦汁を糖化させた後に発酵させるが、日本酒は糖化と発酵を並行して行う工程があることが大きな特徴である。並行複発酵と呼ばれるこの日本酒独特の醸造方法が、他の醸造酒に比べて高いアルコール度数を得ることができる要因になっている。

    日本酒は、次の過程を経て醸造される。

    精米[編集]

    玄米から糠・胚芽を取り除き、あわせて胚乳を削る。削られた割合は精米歩合によって表される。

    米に含まれる蛋白質・脂肪は、米粒の外側に多く存在する。醸造の過程において、蛋白質・脂肪は雑味の原因となるため、米が砕けないよう慎重に削り落 とされ、それにより洗練された味を引き出すことができる。その反面、精米歩合が高くなればなるほど米の品種の個性が生かしにくくなり、発酵を促すミネラル 分やビタミン類も失われるので、後の工程での高度な技術が要求されることになる。

    精米の速度が速すぎると、米が熱をもって変質したり砕けたりするので、細心の注意をもってゆっくり行わなくてはならない。吟醸、大吟醸となると、削りこむ部分が大きいだけでなく、そのぶん対象物が小さくなって神経も使うので、精米に要する時間は丸二日を超えることもある。

    1930年(昭和5年)頃以降は縦型精米機の出現により、より高度で迅速な精米作業が可能になり、ひいてはのちの吟醸酒の大量生産を可能にした(参照:吟醸酒の誕生)。最近ではこの縦型精米機をコンピュータで制御して精米している大メーカーもある。

    放冷・枯らし[編集]

    精米後の白米、分け後の酒母、出麹後の麹を次の工程で使用されるまで放置すること。

    精米された米はかなりの摩擦熱を帯びている。精米歩合が高く、精米時間が長ければ長いほど、帯びる熱量も大きくなる。そのままでは次の工程へ進むには米の質が安定していない(杜氏や蔵人の言葉では「米がおちついていない」)ため、袋に入れて倉庫の中でしばらく冷ますことになる。また、摩擦熱によって蒸発した水分を元に戻す。これを放冷(ほうれい)、また杜氏・蔵人の言葉では枯らし(からし)という。「しばらく」と言っても数時間単位で済む作業ではなく、摩擦熱が放散しきって完全に米が落ち着くまで通常3週間から4週間は掛かる。

    洗米[編集]

    精米された米は、精米の過程で表面に付いた糠・米くずを徹底的に除去される。これが洗米(せんまい)である。

    普通酒を 造る米などは、機械で一度に大量に洗米される。他方、高級酒を造る米は、手作業でおよそ10キログラムぐらいずつ、5℃前後の冷水で、流れる水圧を利用し て少しずつ洗われる。洗っている間にも米は必要な水分を吸収しはじめており、「第二の精米作業」と言われるほどに、細心の注意を払う工程である。こうして 洗われた米は浸漬へ回される。

    浸漬[編集]

    洗米された米は、水に付けられ、水分を吸わされる。これを浸漬(しんせき、若しくはしんし)という。

    浸漬は、のちのち蒸しあがった米にムラができないように、米の粒全般に水分を行き渡らせるために施される工程である。水が、米粒の外側から、中心部の心白(杜氏蔵人言葉では「目んたま」)と呼ばれるデンプン質の多い部分へ浸透していくと、米粒が文字通り透き通ってくる。米の搗(つ)き方、その日の天候、気温、湿度、水温などさまざまな条件によって、浸漬に必要な時間は精緻に異なる。冬の厳寒のさなかの手仕事である。

    このとき、米にどれだけ水を吸わせるかによって、できあがりの酒の味が著しく違ってくる。米の品種や、目指す酒質によって、浸漬時間も数分から数時間と幅広い。精米歩合が高い米ほど、その違いが大きく結果を左右するので、高級酒の場合はストップウォッチを使って秒単位まで厳密に浸漬時間を管理する。米は水から上げた後もしばらく吸水しつづけるので、その時間も計算に入れた上で浸漬時間は判断される。

    なお、できあがりの酒質のコンセプトによっては、意図的に途中で水から上げるなど、ある一定の時間だけ米に吸水させる。これを限定吸水(げんていきゅうすい)という。

    蒸し[編集]

    浸漬を経た米は広げて、湿度を保たせる。この間も米は水分を吸収し続ける。

    その後、麹の酵素が米のデンプンを分解しやすくさせるために、米を蒸す。この工程を正式には蒸きょう(じょうきょう:「きょう」は「食へんに強」)、もしくは杜氏蔵人言葉で蒸しという。普通酒などでは自動蒸米機(じどうじょうまいき)という機械で、高級酒などでは和釜に載せた甑(こしき)という大きな蒸籠(せいろ)に移して、約1時間ほど乾燥蒸気で蒸す。

    蒸しあがった米は、「外硬内軟」といって、外側がパサパサとしていて内側が柔らかいのがよいとされている。外側が溶けていると、コウジカビの定着の 前に腐敗が始まる恐れがあり、また、内側に芯が残っていると、米で一番良質のデンプン質を含んだ部分が、糖化・発酵しない可能性があるからである。

    なお、和釜から甑を外すことを甑倒し(こしきだおし)という。それは単に蒸しの作業が終わることだけでなく、杜氏や蔵人たちにとっては気の抜けない酒造りの季節が終わり、ほっと一息つく日の到来をも意味する。

    麹造り[編集]

    麹とは、蒸した米に麹菌というコウジカビの胞子をふりかけて育てたもので、米のデンプン質をブドウ糖へ変える糖化の働きをする(詳しくは麹参照)。麹造りは正式には製麹(せいぎく)という。

    口噛み製法で醸されていた原初期の日本酒をのぞいて、奈良時代の初めにはすでに麹を用いた製法が確立していたと考えられる。以来、永らく麹造りは、酒造りの工程に占める重要性と、味噌や醤油など他の食品への供給需要から、酒屋業とは別個の専門職として室町時代まで営まれてきたのだが、1444年の文安の麹騒動によって酒屋業の一部へと武力で吸収合併された(参照:日本酒の歴史 – 室町時代)。

    現在、たいてい酒蔵には麹室(こうじむろ)と呼ばれる特別の部屋があり、そこで麹造りが行われている。床暖房やエアコンな どで温度は30℃近く、湿度は60%以下に保たれている。温度が高いのは、そうしないと黄麹菌が培養されないからであり、また湿度に関しては、それ以上高 いと黄麹菌以外のカビや雑菌が繁殖してしまうからである。入室には全身の消毒が必要で、関係者以外は入れない。それに加え、室外から雑菌が入り込まないよ うに二重扉、密閉窓、断熱壁など、かなりの資本をかけて念入りに造られている。よく「麹室は酒蔵の財産」と言われる。

    「麹」の項に詳しく述べられているように、麹からは糖化作用のためのデンプン分解酵素のほか、タンパク質分解酵素なども出ており、これらが蒸し米を溶かし、なおかつ酒質や酒味を決めていく。あまり酵素が出すぎると目指す酒質にならないため、米の溶け具合がちょうどよいところで止まるように麹を造る必要がある。

    破精込み具合[編集]

    それを見極めるのに着目されるのが、米のところどころに生じる破精(はぜ)である。ちょうど植物が土中へ根を生やすように、 コウジカビが蒸米の中へ菌糸を伸ばしていくことを破精込み(はぜこみ)といい、その態様を破精込み具合(はぜこみぐあい)という。破精込み具合によって麹は次のように分類される。

    突破精型(つきはぜがた)
    コウジカビの菌糸は蒸米の表面全体を覆うことなく、破精の部分とそうでない部分がはっきり分かれており、なおかつ菌糸は蒸米の内部奥深くへしっかり喰いこみ伸びている状態。強い糖化力と、適度なタンパク質分解力を持つ理想的な麹となり、淡麗で上品な酒質に仕上がるため、一般的な傾向としては吟醸酒によく使われる。
    総破精型(そうはぜがた)
    コウジカビの菌糸が蒸米の表面全体を覆い、内部にも深く菌糸が喰いこんでいる状態。糖化力、タンパク質分解力ともに強いが、使用する量によっては味の多い酒になりやすい。濃醇でどっしりした酒質に仕上がるため一般に純米酒に好んで使われる。
    塗り破精型(ぬりはぜがた)
    コウジカビの菌糸は蒸米の表面全体を覆っているが、内部には菌糸が深く喰いこんでいない状態。糖化力、タンパク質分解力ともに弱く、粕歩合が高く、力のない酒になりやすい。
    馬鹿破精型(ばかはぜがた)
    前の工程、蒸しの段階で手加減を間違えたため、蒸米が柔らかすぎて、表面にも内部にも菌糸が喰いこみすぎ、グチャグチャになった状態。こうなると雑菌に汚染されている危険もある。酒造りには通常使えない。
    杜氏や蔵人の間ではよく「一麹(いちこうじ)、二酛(にもと)、三造り(さんつくり)」と言われる。「よい麹ができれば酒は七割できたも同然」という杜氏や蔵人もいるくらいで、酒造りの根本として重要視される。

    目安としては蒸し米30キログラムにつき約1坪のスペースが必要で、また大吟醸酒などでは蒸し米100キログラム当たりに振りかける黄麹菌は5グラムほどである。

    目指す酒質によって、麹造りには以下のような方法がある。

    蓋麹法[編集]

    蓋麹法(ふたこうじほう)は、主に吟醸酒かそれ以上の高級酒のための方法であり、麹造りに要する時間は丸2日以上、だいたい50時間で、おおかた以下のような順番で作業が行われる。

    種切り まだ35℃近くの蒸し米を薄く敷き詰め、篩(ふるい)から種麹(たねこうじ)、すなわち粉状の黄麹菌を振りかけていく。終わると米を大きな饅頭のように中央に集めて布で包む。
    切り返し 種切りから8 – 9時間経つと、黄麹菌の繁殖熱により水分が蒸発し米が固くなっているので、いったん広げて熱を放散させたうえで、ふたたび大きな饅頭にして包む。
    盛り 翌日あたりになると黄麹菌の活動が盛んになり、米の温度も上昇が著しい。そこで大きな饅頭を解き、小さな箱に米を少量ずつ小分けにしていき、この箱を決められたスペースに積み重ねて管理する。この小さな箱のことを麹蓋(こうじぶた)といい、麹蓋に米を盛りつけることからこの工程を盛りと呼ぶ。非吟醸系の酒の場合、麹蓋は使われないことも多い。
    積み替え 盛りから3 – 4時間経つと、ふたたび米が熱を持ってくるので、麹蓋を上下に積み替えて温度を下げる。
    仲仕事(なかしごと) ふたたび熱を散らすために米を広げて温度を下げる。
    仕舞い仕事(しまいしごと) また熱を散らすため、米を広げる。これで米の熱を散らす作業は終わりという意味から仕舞い仕事と呼ぶのだが、実際上はこれが最後ではない。
    最高積み替え 仕舞い仕事のあとも米の温度はさらに上がる。温度が最高になったときに、最後の温度調整のために麹蓋の上下積み替えを行う。温度が最高になったときに行うので最高積み替えという。この後も何回か米の温度を見て、適宜に積み替えをして温度を下げる作業が続く。
    出麹(でこうじ) 50時間ほど経過した頃になると、栗を焼いたような香ばしい匂いがしてくる。これが麹ができたサインとなる。こうなったら麹室から麹を出す。
    箱麹法[編集]

    箱麹法(はここうじほう)は、蓋麹法から「3. 盛り」以降を簡略化する手法で、普通酒を中心とした酒質に用いられる。麹蓋を大きくしたような麹箱を使って米を小分けするが、大きい分だけ一度に処理できる米の量が増え、ひいては手間やコストの低減化に繋がる。

    床麹法[編集]

    床麹法(とここうじほう)は、麹蓋や麹箱を用いずに、麹床(こうじどこ)などと呼ばれる、米に黄麹を振りかける台で米の熱を放散させて造る方法である。普通酒を中心とした酒質に用いられる。

    機械製麹法[編集]

    機械製麹法(きかいせいぎくほう)は、機械を用いて麹を大量生産できる方法。手間がかからず生産コストは抑えられるが、できる酒質に は限界があるので、高級酒には適さないとされる。普通酒を中心とした酒質に用いられる。最近では若い杜氏の小さな蔵での少量高品質の酒用への取り組みが注 目されている。人の手が入ることによる雑菌混入が引き起こす酸度の予期せぬ上昇を抑えるというメリットがあり、少ない人員でより効率的に麹の生育状況を厳 密に管理できることに加え、同時にデータの収集・蓄積も出来るという今まで経験頼りでムラのある作業ではない、正確無比な狙い通りの麹が造れることから積 極的に小規模な機械製麹機によるプレミアム日本酒造りが行われている。

    酒母造り[編集]

    酵母を増やす行程のこと。杜氏・蔵人言葉では「酛立て」(もとだて)という。

    酵母にはブドウ糖をアルコールに変える働き、すなわち発酵作用があるものの、酒蔵で扱うような大量の米を発酵させるためには、微生物である酵母が一匹や二匹ではまったく不十分で、米の量に見合っただけの何百億、何千億匹もの酵母が必要となる。だが、実際の酵母の数を数える単位は匹ではなくcellという。

    こうした状況の中で酒蔵では、アンプルに入っている少量の協会系酵母を特定の環境で大量に育てることになる。このように大量に培養されたものを酒母(しゅぼ / もと)または酛(もと)という。

    作業としては、まず酛桶(もとおけ)と呼ばれる高さ1mほどの桶もしくはタンクに、麹と冷たい水を入れ、それらをよく混ぜる。すると水麹(みずこうじ)と呼ばれる状態のものができあがる。酛桶は、最近では高品質のステンレス鋼のものが多く、どうみても「タンク」といった風体だが、醸造器としてはあくまでも「酛桶」という。

    そのあと水麹に醸造用乳酸と、採用すると決めた酵母を少量だけ入れる。採用する酵母は、多種多様な清酒酵母から、造り手が目指す酒質に適すると考えるものが通常は一種類だけ選ばれるが、その酵母があまりにも強い特性を持つ場合などには、それを緩和するためにもう一種類の酵母をブレンドして入れることも多い。

    上記のものに蒸し米を加えると酒母造りの仕込みは完成する。あとは製法によって2週間から1ヶ月待つと、仕込まれた桶の中で酵母が大量に培養され酒母すなわち酛の完成となる。

    酒母造りの場所は、酒母室(しゅぼしつ)もしくは酛場(もとば)と呼ばれ、雑菌や野生酵母が入り込まないように室温は5℃ぐらいに保たれている。しかし麹室に比べると管理の厳重さを必要としないので、酒蔵によっては見学者を入れてくれる所もある。酒母室の中では、酵母が発酵する小さな独特の音が響いている。

    酒母造りの際には、タンクの蓋は開け放しの状態になるから、空気中からタンク内にたくさんの雑菌や野生酵母が容易に入り込んでくる。そのため硝酸還元菌や乳酸菌を加え、乳酸を生成させることによって雑菌や野生酵母を死滅させ駆逐することが必要となる。この乳酸を、どのように加えるかによって、酒母造りは大きく生酛系(きもとけい)と速醸系(そくじょうけい)の2つに分類される。

    生酛系[編集]

    生酛系(きもとけい)の酒母造りは現在大きく生酛(きもと)と山廃酛(やまはいもと)に分けられる。

    生酛[編集]

    生酛(きもと)とは、現在でも用いられる中で最も古くから続く製法で、乳酸菌を空気中から取り込んで乳酸を作らせ、雑菌や野生酵母を駆逐するものである。酒母になるまでの所要期間は約1か月。所要期間が長いのは、工程が多く手間が掛かるのと、醗酵段階も完全醗酵させるからである。現在でも時間や労力が掛かるので敬遠される傾向にあるが、成功すればしっかりとした酒質となるため、伝統の復活のために取り組んでいる酒蔵も増えてきている。主な工程は以下の通り。

    米、麹、水を桶(タンク)に投入 > 山卸 > 温度管理 > 酵母添加 > 温度管理 > 酒母完成

    しかし、腐造や酸敗のリスクが大きかったことから明治42年(1909年)に国立醸造試験所(現在の独立行政法人酒類総合研究所)によって山廃酛が開発された。次項参照。

    山廃酛[編集]

    山廃酛(やまはいもと)とは、生酛系に属する仕込み方の一つで山卸廃止酛(やまおろしはいしもと)の略である。この方法で醸造した酒のことを 山廃仕込み(やまはいしこみ / -じこみ)あるいは単に山廃(やまはい)という。おおざっぱに言えば、生酛造りの工程から山卸を除いたものとなるが、単に山卸を省略したものではなく、関連するその他の細部の作業もいろいろ異なる。「山卸」とは米と麹と水を櫂で混ぜる作業のことで「酛すり」ともいう。詳しくは「山廃仕込み」「生酛・山廃・速醸酛の関係」参照。

    速醸系[編集]

    速醸系(そくじょうけい)では、乳酸を人工的にあらかじめ加える、近代的な製法。明治43年(1910年)に考案された。仕込み水に醸造用の乳酸を加え、十分に混ぜ合わせた上で、掛け米と麹を投入して行われる。速醸酛(そくじょうもと)とも呼ばれる。所要期間は約2週間。現在造られている日本酒のほとんどは、速醸系である。工程は以下の通り。

    米、麹、水、乳酸を混ぜる > 酵母添加 > 温度管理 > 酒母完成

    醪造り

    醪(もろみ)とは、仕込みに用いるタンクの中で酒母、麹、蒸米が一体化した、白く濁って泡立ちのある粘度の高い液体のことであるが、学問的・専門的にではなく、あくまでも一般的理解のためという前提で補足すると、日本酒の製法という文脈に限っては、

    「醪(もろみ)」=「仕込み」=「造り」
    としてほぼ同意に使われることが多い。

    したがってこの醪造りも、単に「造り」と呼ばれる。「一に麹、二に酛、三に造り」というときの「造り」はこれを意味している。またこの造りを行う場所を仕込み場(しこみば)という。現在の仕込み場は、たいてい温度センサーの取り付けられた3t仕込みタンクが並んでいる。

    醪造りの工程においては、酵母のはたらきでもろみがアルコールを生成すると同時に、麹によってデンプンが糖に変わる。この同時並行的な変化が日本酒に特徴的な並行複発酵である。

    また仕込むときに三回に分けて蒸米と麹を加える。これが室町時代の記録『御酒之日記』にもすでに記載されている段仕込みもしくは三段仕込みである。

    この方法により酵母が活性を失わずに発酵を進めるため、醪造りの最後にはアルコール度数20度を超えるアルコールが生成される。これは醸造酒としては稀に見る高いアルコール度数であり、日本酒ならではの特異な方法で、世界に誇れる技術的遺産といえる。

    1回目を初添(はつぞえ 略称「添」)、踊りと呼ばれる中一日を空けて、2回目を仲添(なかぞえ 略称「仲」)、3回目を留添(とめぞえ 略称「留」)という。20 – 30日かけて発酵させる。

    吟醸系(吟醸酒・大吟醸酒)と非吟醸系(それ以外の酒)は、この過程において以下の二つの点で造り方が分かれる。

    精米歩合
    精米は、米に含まれる蛋白質を取り除くために行われるが、生物の構成において蛋白質が重要である以上、精米歩合の高い麹米・掛米から造られた醪は、酵母が生きていくにはよい環境ではない。そのため、酵母はその環境で生存するために、それら自身がアミノ酸、クエン酸、リンゴ酸などの有機酸を生成する。これらの中で、揮発性のものが独特の吟醸香を構成する。米が削り込んであればあるほど、酵母は苦しんで、吟醸香を出す。
    温度管理
    酵母がブドウ糖からエネルギーを得るためにも、また酵母が自身にとって快適な生存環境を構築するためにも、熱が放出される。しかし、その熱は醪の 中の化学成分、とくに有機酸に影響を与えて、雑味となる成分を生成してしまう。また生物は、主な構成物質が蛋白質であるために、その大半は蛋白質の凝固温 度の手前である35℃前後が活動に適した温度である。雑味を抑えるためには、発酵熱が放出されてもなお35℃を下回らなければならない。そのために、日本 酒造りは冬の寒い時期に行われることになった。通常の造りは15℃前後に熱を抑えるのに対し、さらに有機酸への影響を多く考えなくてはならない吟醸系の場 合は10℃前後が目安とされる。
    泡の状貌[編集]

    温度計もセンサーもなかった時代から、杜氏や蔵人たちは醪(もろみ)の表面の泡立ちの様子を観察し、いくつかの段階に区分けすることによって、内部の発酵の進行状況を把握してきた。この醪の表面の泡立ちの状態を(泡の)状貌(じょうぼう)といい、以下のように示される。

    筋泡(すじあわ) 留添から2 – 3日ほど経つと生じてくる筋のような泡で、醪の内部での発酵の始まりを告げる。
    水泡(みずあわ) 筋泡からさらに2日ほど経った頃。カニが口から吹くような白い泡。醪の中の糖分は頂点に達している。
    岩泡(いわあわ) 水泡からさらに2日ほど経った頃。岩のような形となる泡。発酵に伴って放熱されるので温度上昇も著しい頃である。
    高泡(たかあわ) 岩泡からさらに2日ほど経った頃。留添から通算すると1週間から10日前後。岩泡全体が盛り上がりを見せる。化学的には発酵が糖化に追いつこうとしている状態。泡あり酵母と泡なし酵母の区別は、この高泡の有無で決められることが多い。
    落泡(おちあわ) 留添から12日前後経った頃。泡の盛り上がりが落ち着いてくる。化学的には発酵が糖化に追いついた状態。
    玉泡(たまあわ) さらに2日ほど、また留添から通算で2週間ほど経った頃。詳しくは大玉泡→中玉泡→小玉泡に分けられる。泡は玉の形になってどんどん小さくなっていく。小さければ小さいほど発酵はだいぶ落ち着いてきている。
    地(じ) さらに5日ほど、または留添から通算3週間近く経った頃。玉泡が小さくなりきって、今度は消えていく。発酵も終盤に近いことを示す。だが、どの段階で「醪 造り」の全工程の終了とみなすかは、杜氏の判断に任されている。目的とする酒質によっては、このまま何日か時間を置いたほうがよく、また吟醸系の場合はさ らにその状態を持続させることが好ましいとされるからである。
    近年、泡なし酵母が多く開発されてきたが、今日でも泡あり酵母を使った醸造では、仕込みタンクの中で日々刻々と上記のような状貌の推移を見ることができる。

    アルコール添加[編集]

    上槽の約2日前から2時間前にかけて、ゆっくりと丹念に30%程度に薄めた醸造アルコールを添加していくこと。

    「アルコール添加」または略して「アル添(アルてん)」という語感から、工業的に何か不純な添加物を加えるかのようなイメージをもたれることが多い(参照:当記事内『美味しんぼ』)が、古くは江戸時代の柱焼酎という技法にさかのぼる、伝統的な工程のひとつである。次のような目的がある。

    防腐効果 現在のアルコール添加の起源となっている、江戸時代の柱焼酎は、酒の腐造を防ぐために焼酎を加える技法であった。かつては防腐効果がアルコール添加の最も重要な目的であった。衛生管理が進んだ現代では、こうした意味合いは薄れてきている。
    香味の調整 現在のアルコール添加の目的の第一はこれである。適切なアルコール添加は、醪からあがった原酒に潜在している香りを引き出す。とくに吟醸系の酒の香味成分 は、水には溶けないものが多く、それを溶かし出すためにアルコール添加が必要となる。そもそも吟醸酒自体が、アルコール添加を前提として開発された酒種で あった(参照:日本酒の歴史#吟醸酒の誕生)。現在、吟醸酒を生産する酒蔵ではアルコール添加は酒質を高めるために必須と考えているところが多い。
    味の軽快化 現在のアルコール添加の目的の第二。醪(もろみ)の 中には発酵の過程で生成された糖や酸が多く含まれており、これらを放置しておくと、完成した酒が、良く言えば重厚、悪く言えば鈍重な味わいになる。ここで アルコール添加を行っておくと、それらが調整される。また純米酒はその性質上、多かれ少なかれ酸味が飲んだ後に残る。アルコール添加により酸味が抑えら れ、飲み口がまろやかになる。さらに、現代の食生活では旨み・油が多用され、飲料としては軽快な味わいのものが求められるようになってきたために、酒の切 れ味を良くするためにアルコール添加が活用されている側面もある。
    増量 三増酒の全盛時代には、酒の量を水増しするために行われたことが多かった。「アル添」という工程が一般的に悪いイメージを持たれるのには、主にそうした前の時代の負の遺産であると言い訳されることもあるが、実際に「アル添」されたものは臭みが増すとの声もある。
    上槽[編集]

    上槽(じょうそう)とは、醪(もろみ)から生酒(なまざけ)を搾る工程である。杜氏の判断で「熟成した」と判断された醪へ、アルコール添加や副原料が投入され、これを搾って、白米・米麹などの固形分と、生酒となる液体分とに分離する。杜氏蔵人言葉では搾り(しぼり)、上槽(あげふね)ともいう。

    なお、固形分がいわゆる酒粕(さけかす)になる。原材料白米に対する酒粕の割合を、粕歩合(かすぶあい)という。

    上槽を行う場所を上槽場(じょうそうば)といい、普通酒、本醸造酒、純米酒は、そこで醪自動圧搾機(もろみじどうあっさくき)や遠心分離機(えんしんぶんりき)などの機械で搾られる。吟醸酒のように丁寧な作業を要する酒は、昔ながらの槽搾り(ふねしぼり)、ヤブタ搾り、袋吊りなどの方法で搾られる。それは単に手造り感を演出しているわけではなく、吟醸酒の醪には溶解していない米が他種の酒よりも多く残る結果となるので、機械で搾ろうとしても酒粕が詰まってしまうからである。

    搾りだされた酒が出てくるところを槽口(ふなくち)という。

    また酒蔵では、その年初めての酒が上槽されると、軒下に杉玉(すぎたま)もしくは酒林(さかばやし)を吊るし、新酒ができたことを知らせる習わしがある。吊るしたばかりの杉玉は蒼々としているが、やがて枯れて茶色がかってくる。この色の変化がまた、その酒蔵の新酒の熟成具合を人々に知らせる役割をしている。

    滓引き[編集]

    滓引き(おりびき)とは、上槽を終えた酒の濁りを取り除くために、待つことを指す。槽口(ふなくち)から搾り出されたばかりの酒は、まだ炭酸ガスを含むものも多く、酵母・デンプンの粒子・蛋白質・多糖類などが漂い、濁った黄金色をしている。この濁りの成分を滓(おり)といい、これらを沈澱させるため、酒はしばらくタンクの中で放置される。滓引きによる効果は、単に濁りをとることに留まらず、余分な蛋白質を除去することで、瓶詰後の温度変化や経時変化によって引き起こされる蛋白変性での濁りの予防や、後工程となる濾過の負担軽減へも影響を及ぼす。

    滓引きを施した上澄みの部分を「生酒」(なましゅ)という。「生酒」(なまざけ)とは別の概念なので注意を要する。

    完成酒を生酒(なまざけ)や無濾過酒(む ろかしゅ)に仕立てる場合などは異なるが、大多数の一般的な酒の場合、上槽から出荷までには二度ほど滓下げを施すことが多い。第一回目の滓引きを行ったあ との生酒(なましゅ)にも、まだ酵母やデンプン粒子などの滓が残っているのが普通で、雑味もかなりあり、これらを漉し取るために濾過(ろか)の工程が必要となってくる。

    近年では、消費者の「生」志向に乗じて、滓引き以降の工程を施さず無濾過生原酒として出荷する酒蔵も現れてきている。

    なお、滓引きと混同されやすいものに「滓下げ」という用語があるが、滓引きとはまた別の概念なので注意を要する

    濾過[編集]

    濾過(ろか)とは、滓下げの施された生酒(なましゅ)の中にまだ残っている細かい滓(おり)や雑味を取り除くことである。液体の色を、黄金色から無色透明にできるだけ近づける目的もある。なお、この工程をあえて省略して、無濾過酒(むろかしゅ)として出荷する場合も多い。

    活性炭濾過 生酒(なましゅ)の中に、粉末状の活性炭を投入して行われる濾過を炭素濾過(たんそろか)もしくは活性炭濾過(かっせいたんろか)ともいう。この活性炭粉末を、酒蔵では単に炭(すみ)と呼ぶ。基本的には一般家庭の冷蔵庫などで使われる脱臭炭や、煙草のフィルターに 入っている黒い粉末と同じものである。目安として、生酒(なましゅ)1キロリットルにつき炭1キログラムを投入し、取り除きたい成分や色をその炭に吸着さ せて沈澱させる。その後に不要成分ごと炭を脱去する。活性炭を投入するといっても、単に投げ入れるだけではなく、取り除きたい成分や色だけを抜くところに この工程の難しさがある。あまり入れすぎると酒は澄んでくるが、味も色も香りもすべて無化して面白くも何ともない完成酒になってしまう。じつは高級酒ほど 炭の使用量は少なく、根強いファン層を持つ銘酒では0.06キログラム程度であるともされる。このように、炭加減(すみかげん)がたいへん微妙であることから、地酒の本場では蔵人の間で炭屋(す みや)と呼ばれる、この工程だけの専門家が多く存在したが、活性炭濾過そのものが過去の手法になりつつあり、現在では活性炭の使用量、使用の有無、炭屋な る専門職は減少傾向にある。また活性炭を使用してから他の方法で濾過する場合も多いので、「活性炭の使用」の有無と「濾過」の有無は、違う話である。
    珪藻土濾過 精製された珪藻土の層を用いた濾過を行い、夾雑物を、そして活性炭濾過を行ったあとであれば活性炭そのものを取り除く。珪藻土とは珪藻類の化石で、非常に小さな孔を多数持つ形状をしており、色の元となる物質、雑味物質、香り物質もある程度除去する。この濾過技術の進歩は、活性炭の使用減少の一助ともなっている。
    濾紙による濾過 特殊な濾紙を用いて濾過をする場合もある。
    フィルター濾過 最近とみに増加してきた。カートリッジ式のフィルターを用いて濾過する方法。カートリッジ式なので取り替えが可能で、手軽さがメリットである。とくに生酒(なまざけ)として出荷する場合は、火落ち菌対策として、火入れをしないことから、高精度な(0.22 – 0.65μ程度の)除菌のための濾過をこれによって行う。
    槽口(ふなくち)から搾られたばかりの日本酒は、たいてい秋の稲穂のように美しい黄金色をしている。かつての全国新酒鑑評会では、酒に色がついた出品酒を減点対象にしていた時代があった。いきおい、酒蔵はどこも懸命に活性炭濾過で色を抜き、水のような無色透明の状態にして出荷することが多かった。

    いわゆる「清酒」という言葉から一般的に連想される無色透明な色調は、そのような時代の名残りともいえる。現在では、雑味や雑香はともかく色の抜去 は求められなくなってきたので、色のついたまま流通する酒が復活し、自然な色のついた酒の素朴さを好む消費者も増えてきている。

    火入れ[編集]

    火入れ(ひいれ)とは、醸造した酒を加熱して殺菌処理を施すこと。火当て(ひあて)ともいう。火入れされる前の酒は、まだ中に酵母が生きて活動している。また、麹により生成された酵素もその活性を保っているため酒質が変化しやすい。また、乳酸菌の一種である火落菌が 混入している恐れもある。これを放置すると酒が白く濁ってしまう(火落ち)。そこで火入れにより、これら酵母・酵素・火落菌を殺菌あるいは失活させて酒質 を安定させる。これにより酒は常温においても長期間の貯蔵が可能になる。しかし、あまり加熱が過ぎれば、アルコール分や揮発性の香気成分が蒸発して飛んで しまい酒質を損なう。そのため、これも加減が難しく、62℃ – 68℃程度で行われる[12]。なお、65℃の温度で23秒間加熱すれば乳酸菌を殺菌できることが知られている[13]。

    火入れの技法は、室町時代に書かれた醸造技術書『御酒之日記』にもすでに記載され、平安時代後期から畿内を中心に行われていたことが分かる。これはすなわち、西洋における細菌学の祖、ルイ・パスツールが1866年にパスチャライゼーションによる加熱殺菌法をワイン製造に導入するより500年も前に、日本ではそれが酒造りにおいて一般に行われていたことになる[注釈 2]。

    明治時代に来日したイギリス人アトキンソンは、1881年に各地の酒屋を視察、「酒の表面に“の”の字がやっと書ける」程度が適温(約130°F(55℃))であるとして、温度計のない環境で寸分違わぬ温度管理を行っている様子を観察し、驚きをもって記している。

    火入れと「生酒」の関係[編集]

    火入れをしていない酒は「生酒」「無濾過生原酒」などとして人気がある。そういう「生」系の酒はみずみずしく、香りも若やいで華やかであり、また残存する微発泡感はのど越しもよい。火入れをするとそれらの酒の繊細さが失われるため、保存管理さえ徹底されていれば「生酒」には火入れした酒にはない味わいがある。

    従来は低温での保存、流通を管理するのは難しく「生酒」が市場に出るのはまれだったが、保存管理が行き届くようになった近年「生酒」が市場に出回るようになり、日本酒の中で「生酒」が新しい楽しみ方のひとつとなっている。

    ただし、日本酒は火入れをしなければ劣化が早く、すぐに生老ね香を発するため、生酒はとくに正しい保存管理をしなければならない。

    また「生」系の酒の味は荒々しく、貯蔵・熟成を経た酒が持つ旨みやまろみ、深みに欠けるため、従来通りの火入れの工程を経た酒も日本酒としての魅力を失うわけではない。

    「生酒」をめぐる表示問題[編集]

    生貯蔵酒(なまちょぞうしゅ)や生詰酒(なまづめしゅ)に仕立てる場合などを除いて、大多数の一般的な酒の場合、上槽 から出荷までの間に火入れは二度ほど行われる。すなわち、1回目は貯蔵して熟成させる前、2回目は瓶詰めして出荷する直前である。とくに1回目の火入れ は、成分に落ち着きを与え、その先の貯蔵中にどのように熟成していくかの方向性を左右する。これを分かりやすくチャートにすると以下のようになる。

    上槽 → 滓下げ1回目 → 濾過1回目 → 火入れ1回目 →貯蔵・熟成 → 滓下げ2回目 → 濾過2回目→割水→火入れ2回目 → 瓶詰め → 出荷

    生貯蔵酒(なまちょぞうしゅ) 火入れ1回目をしない。杜氏蔵人言葉では「先生」(さきなま)、「生貯」(なまちょ)などという。
    生詰酒(なまづめしゅ) 火入れ2回目をしない。杜氏蔵人言葉では「後生」(あとなま)などという。
    生酒(なまざけ) 火入れ1回目も2回目もしない。杜氏蔵人言葉では「生生」(なまなま)、「本生」(ほんなま)などという。
    原酒(げんしゅ) 滓下げ1回目を施された上澄み部分の酒のこと。
    以上のような前提の中で、生貯蔵酒や生詰酒は、少なくとも1回は火入れをしていて本当は「生」ではないわけだから、「生」を名称に含めるのは妥当ではない、という議論がなされている。

    また、「生」好みの消費者心理を利用し、生貯蔵酒や生詰酒の「生」の字だけを大きく、あるいは目立つ色彩でラベルに印刷し、その他の文字を小さく地 味に添えるなどして、あたかも生貯蔵酒や生詰酒が「生」の酒であるかのようにイメージを演出して流通させている蔵元もある。一方では、吟醸酒や純米酒の中 には「生詰」と表示しているだけでも、本当の生酒(なまざけ)、いうならば「生生」も流通されるようになってきた。

    貯蔵・熟成[編集]

    熟成の概要[編集]

    熟成(じゅくせい)とは、貯蔵されている間に進行する、酒質の成長や完成への過程をいう。上槽や滓下げのあと、無濾過や生酒として出荷するために、濾過や火入れを経ないものもあるが、そうでない製成酒は通常それらの工程を経た後に、さらに酒の旨み、まろみ、味の深みなどを引き出すためにしばらく貯蔵(ちょぞう)される。

    吟醸系の酒は、香りや味わいを安定させるために、半年かそれ以上、熟成の期間を持たせるものも多い。しかし、いちいち古酒、古々酒といった表示をするのは、吟醸の品格からして無粋であるというような感覚から、そういった表示はラベルにされないのが通常である。

    非吟醸系であっても、本醸造酒や純米酒では、酒蔵のある風土の自然条件、仕込み水の特徴、杜氏が目的とするコンセプトなどさまざまな理由から、長期間貯蔵して熟成させるものがある。

    熟成のメカニズム[編集]

    火入れを経過させない酒においては発酵が止まっておらず、調熟作用(ちょうじゅくさよう)といって、アミノ酸分解や糖化により風味の自然調和が続いている。そのため、調熟作用によって最終的にその酒の持ち味を生み出している銘柄では、すぐに出荷せず貯蔵・熟成させるのは、欠かすことのできない工程の一部である。一般的に完全醗酵させた純米酒は熟成がゆっくりと進み、劣化しにくい。不完全醗酵の製成酒は、アルコールに分解されていない成分が多く含まれるため、酒質の変化は早いが劣化しやすいと言われている。

    熟成の原因は、大きく分けて外部から加わる熱や酸素になどによる物理的要因と、内部で起こるアミノ酸を初めとする窒素酸化物やアルデヒドなどによる化学的原因とに分かれるが、具体的な理論に関しては未解明な部分が多い。たとえば、廃坑や廃線になったトンネルなど或る特定の場所で貯蔵すると、いくら温度や湿度など科学的に条件を同じにしても、他の場所で貯蔵するよりもあきらかに味がまろやかになる、といった例は多い。福岡銘酒会に加盟する16場の酒蔵が共同で使用している旧国鉄黒木町(くろぎまち)トンネルなどが一例である。そのトンネル内の何が、好ましい熟成に作用しているのかは未だ解明されていない。

    日本酒の賞味期限の問題[編集]

    日本酒は、牛乳などと同じく、新鮮さが命であるため、生酒はもちろんのこと、そうではない火入れをしてある酒であっても、原則的には出荷後はできるだけ早く飲んだ方がよい、と一般に言われている。

    生新酒では、搾りの日から三週間迄の間が一番生新酒のフレッシュな味を楽しめるので、酒販店や蔵元の中にはその三週間以内に届けるところもある。た だ生新酒は直ぐに劣化が始まるため、この期間を逃した場合は成熟の味が劣化を上回るまで待つ必要があり、酒によるが冷蔵庫で6ヶ月前後待つと素晴らしい姿 になっている場合もある。

    食との相互補完[編集]

    滋賀県の鮒寿司の ように、その地方の基本的食品がある一定の期間の貯蔵・熟成を経てから食べられる土地などにおいては、食品が熟成する時間と同じだけの時間が、酒質の完成 にももとよりかかるように醸造される酒もある。つまり食と酒を同じ時期に仕込み、同じ年月を隔てて同時に食べるわけである。こういった熟成は、まさに食文化の基礎にある相互補完という地酒の原点を物語るものである。

    新酒・古酒・秘蔵酒[編集]

    日本酒は、毎年7月から翌年6月が製造年度と定められており、通常は製造年度内に出荷されたものが新酒と呼ばれる。 しかし最近は、上槽した年の秋を待たず6月より前に

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